北海道まで陸路で行ってみた

 2月14日、「札幌OFF会」に参加してきました。普通、関東から北海道に行くには飛行機を使うと思いますが、私はあえて陸路、すなわち新幹線と特急を乗り継いで行ってきました。理由は、一度は陸路で北海道に渡りたいと思っていたからです。また、北海道新幹線ができる前に、「スーパー白鳥」に乗っておきたいというのもありました。
 うえむら社長に「陸路で来ました」と話したら非常に興味を持たれ、その様子を読みたいと言われたので、旅行記を今からしたためようと思います。

 まずは東京駅から東北新幹線に乗ります。緑色に輝く真新しい車体。これが東北新幹線はやぶさ」です。
はやぶさ」は東北新幹線で最も速い列車ですが、この「はやぶさ5号」はその中でもひときわ速い列車で、東京を出ると大宮・仙台・盛岡にしか止まりません。たいていの「はやぶさ」が止まる上野・八戸も通過し、秋田新幹線「こまち」との併結と盛岡での切り離しもありません。新青森までの所要時間は2時間59分です。
 ホームの売店で駅弁のカツサンドを買って、車内へ。駅弁は色々な種類があって迷いましたが、朝だからパン食にしようということでカツサンドにしました。他にパン食がないんですよ〜。
 8:20、定刻どおり出発。東京から大宮までは最高時速120キロでゆっくり走ります。それでも並んで走る埼京線を余裕で追い抜いていきます。
 東京駅を出るときには車内は7割がた埋まっていて、大宮を過ぎるとほぼ満席に。2月は閑散期のはずですし、連休でもありません。休日だから仕事で使う人も多くないはず。それなのに座席がほぼ埋まっているのですから、東北も人の行き来が盛んなのだと実感しました。

 普通車指定席に乗ったのですが、「はやぶさ」の座席は背もたれを倒すと着座部もそれに合わせて少し沈むようにできています。体を包み込むように動いてくれるわけで、この点は東海道新幹線より優れていると思います。

 大宮を過ぎると「はやぶさ」の本領発揮。最高時速320キロで走りますが、揺れないので全くわかりません。大宮から仙台まで1時間7分しかかからないということだけが、いかに速いかを実感させてくれます。仙台でさすがにたくさんの人が降りて行きましたが、ここから乗ってくる人も意外に多く、座席はまだ大半が埋まっています。

 途中、車内でアイスクリームを頼みました。乳脂肪分が15.5%ある、濃厚なアイスクリームです。販売員さんから「固いので気をつけてください」と言われたので、少し時間を置いてスプーンを入れました。確かに、以前新幹線の中でアイスクリームを頼んだとき、すぐにふたを開けて食べようとしたら固くてスプーンが通らなかった覚えがあります。しかし2〜3分経つとすっかりやわらかくなっていて、口に入れるとバニラアイスの濃厚な味わいが口の中に広がりました。

 車窓の眺めですが、これは仙台までちょっと我慢です。関東平野の中を走るので、どこまでも平坦な風景が続きます。また基本的には線路の側が住宅街なので、建物もあまり変化がありません。この点、富士山や相模湾浜名湖を眺められ、富士川や安倍川などの大きな川を渡り、沿線も工場や茶畑など変化に富んでいる東海道新幹線や、トンネルだらけではあっても徳山で海やコンビナートが見える山陽新幹線と異なるところです。
 山側の車窓からは日光や那須の山並み、磐梯山、吾妻山、蔵王など東北の名山が見えますが、遠く離れているのであらかじめ下調べしないとわからないかも知れません。実際、私はわかりませんでした。
 しかし仙台を過ぎて岩手県に入ると北上川が車窓から眺められますし、地面は次第に白く覆われるようになります。八戸を過ぎてトンネルを抜けると一面の銀世界。この季節で青森に入ったら線路際には雪が積もっているだろうなと思っていましたが、それでも「こんなにたくさん!」という驚きと同時に、北国にやってきたことを強く感じたのでした。
 11時19分、定刻どおり新青森駅に到着です。

 乗り換え時間は11分とちょっと少なめですが、在来線のホームは新幹線のホームからすぐ下にあるので、移動に時間はかかりませんでした。ただし途中で駅弁を買っていく余裕はありません。
 ホームに下りると、思ったより寒くありません。この日は全国的に暖かく、気温という点ではあまり北国にやってきた感じがしませんでした。
 今度乗るのは、「スーパー白鳥」。先頭を緑色に塗った銀色の車体で、JR北海道の車両です。

 ここも乗客が多く、座席は大方が埋まっているようでした。その座席は進行方向に対して後ろを向いていますが、乗務員さんが間違えたわけではなく、これが正しい向きなのです。次の青森まではこのまま進みます。
 5分で青森に着きます。列車はここで進行方向が変わります。そう、青森駅青函連絡船に乗り継ぐために作られたので、ホームが海に向かって突き出しています。だから一度バックで入ってから出て行くような感じになるんです。
 少し長い停車時間の後、出発。座席も前向きになって進みます。
 青森の町を離れると、やがて車窓には深い雪に覆われた大地が広がりました。こういう景色を「茫漠」「寂寞」というのでしょう。鉛色の空に、白い大地。眺めているとだんだん感傷的になってくるような気がします。ここは津軽半島の竜飛崎。本州の北の端です。
 座席に備え付けのテーブルの裏には青函トンネルの案内図が貼り付けられていました。全長53.85km、海面下240m。小さなトンネルをいくつかくぐると、いよいよ青函トンネルです。
 トンネルに入ってから最も深いところに達するまで12分、北海道側へ抜けるまで23分。長い長いトンネルです。平らなところがなく、最も深いところまで降りてからはすぐ上り坂。1000m進む間に6m上り下りしています。これを23分で駆け抜けるのですから、時速130km近くで走っていることになります。長い上り下りをものともせず、「スーパー白鳥」は駆け抜けていきます。
 車窓に見えるのは窓の外を次々流れ去る蛍光灯の明かりだけ。車輪がレールの継ぎ目を踏むジョイント音も、青函トンネル内はジョイントのないスーパーロングレールになっているので聞こえません。もし外が見えたら、きっと猛スピードで景色が後ろに流れ去っていたでしょう。
 途中、ひときわ明るく照らされたホームらしいものが見えました。あれが竜飛海底駅だったんですね。青函トンネルができて間もない頃は、見学に多くの人が訪れていましたが、2014年3月14日に廃止されました。
 やがて車窓に、銀世界と鉛色の空が戻ってきました。北海道に入ったのです。少しの間、津軽海峡が旅の道連れです。鉛色の空を映したような、灰色の海が広がっています。天気がよければ函館山が見えるのかもしれませんが、この日はあいにくの空模様でした。
 定刻では13:42着ですが、少し遅れて函館駅に到着です。青函連絡船の頃は4時間を要した旅路を、約半分の2時間で駆け抜けました。北海道新幹線が開業すれば、さらにその半分になるでしょう。
 函館駅に到着すると、ホームの向かい側に札幌行きの特急「北斗9号」が待っていました。「スーパー白鳥」から降りた人の多くが、そのまま向かい側の列車に乗り込んでいきました。しかし私はここでちょっと一休みです。

 次の列車まで1時間ほど余裕があるので、函館駅のそばを散歩しながらお昼ご飯のお店を探すことにしました。函館駅の中でご飯にしようと思ったのですが、工事中でお店が全部閉まっていたのです。
 駅を出ると潮の香りが鼻をつきます。駅が海のすぐそばにあることを改めて感じます。駅を出ると函館朝市はすぐそば。その向こうに、青函連絡船として就航していた「摩周丸」が見えます。
 昼下がりだからなのか、函館朝市はお店が閉まっていて閑散としていました。
 市電通りを2〜3分歩いてラーメン屋さんを発見。あんかけチャーハンを試しに注文してみました。……思いのほかボリュームたっぷりで、おなかにずっしり来ます。
 函館駅に戻ると、ホームで札幌行き特急「スーパー北斗5号」が待っていました。

 発車時刻の30分以上前から車内に入ることができたので、乗り込んで発車を待ちます。その間、ホームの向かい側に「スーパー白鳥」が入ってきて、多くの人が乗り込んでくるのが見えました。「スーパー北斗」は架線のない区間を走るので、ディーゼルエンジンで動く気動車が使われています。発車を待つ間、エンジンのアイドリング音が床下からずっと響いていました。
 15時13分、定刻に函館を発車。電車は発車するとすぐに加速していきますが、気動車はちょっと違います。少しゆっくり動いた後で加速して行くのです。車輪がレールをしっかり踏みしめているかを確かめた後、ギアを入れ、エンジンのパワーを上げて動き出す……そんな感じです。
 五稜郭を過ぎると15分ほどで大沼が見えてくる……はずなのですが、今日は白い大地が車窓に広がっているだけ。冬の寒さで凍り付いているのです。よく見るとところどころ氷の薄い箇所がありますし、流れ出す小川が凍りつかずに流れているのが見えます。
スーパー北斗」も車内販売があって、長万部の駅弁「かにめし」の注文をとって回ったり、貴重なお菓子「大沼だんご」を売っていたりするのですが……こんなことならお昼を我慢すればよかった。召し上がったことのある人は、ぜひ感想を聞かせてください。
スーパー北斗」に使われている車両は振り子車両といって、カーブでもスピードを落とさずに走れる工夫がされています。そのせいか、配管らしきものが足元の壁際を走っているので窓側の足元が少し窮屈です。しかしカーブで車体を大きく傾けるせいか、山側の座席からでも反対側の座席越しに海側の眺めが見えることがあります。
 車窓からは内浦湾の眺めが見え、持ち直した空模様の下に広がる海は穏やかな色をたたえていました。

 長万部を過ぎると、しだいに夕闇が迫り、車窓には白銀色やオレンジ色の明かりが灯るようになります。澄んだ冬空に、街の灯がひときわくっきりと見えます。
 沿線には海のすぐ近くまで山が迫っているところもあって、時にはその山をトンネルで抜けていくこともありました。地図で見れば北海道は広々とした大地が広がっているようですが、実際に列車で走っていると地形が変化に富んでいることを感じます。
 快調に飛ばしてきましたが、苫小牧を過ぎるとスピードが落ちました。濃い霧が出ており、安全確認のため速度を落として運転するという車内放送が流れました。
 思えば、JR北海道はここ4〜5年事故や不祥事が相次ぎました。特急列車がトンネルの中で丸焼けになったのに始まり、エンジンから白い煙が出るというトラブルも多発しました。レールの異常を放置するという不祥事まで起こしました。ここではそうした事故や不祥事の原因をあれこれ論じることはしませんが、寒さの厳しい北海道を走る鉄道は、温暖な地域よりも保線に手間がかかり、神経を使うことは確かです。
 そうした事故や事件を経て、高速化一本槍だった特急列車も、考え方を変えることを迫られました。「スーパー北斗」はかつては函館〜札幌間を2時間59分で結んでいましたが、今では3時間30分かかります。濃霧で速度を落としているのも、安全により一層の気を遣うようになったからでしょう。
 南千歳の辺りで「ようこそ ミルクの大地北海道へ」という看板が見えました。高架区間に入り、窓一杯に広がる街の灯を見下ろしながら走るようになるともうすぐ札幌。駅のすぐ近くにマンションが建っている駅もあって、地元と雰囲気が似ているなと感じます。
 19時20分、定刻より37分遅れて、「スーパー北斗11号」は札幌に到着しました。

 こうして、東京から札幌まで9時間以上にわたった旅路が終わりました。羽田から千歳まで飛行機を使えば1時間30分ですが、それでもあえて陸路を選んだだけの楽しみもありました。
 次々と変わっていく車窓の眺め、ここでしか手に入らないお菓子やお弁当、そして何より北へ向かうにつれて気候が、季節が移り変わっていくことを感じられる喜び……。
 もし自分もやってみようという方がいたら、そのときはぜひ感想を聞かせてください。

 ちなみに鈍行を使うと、一日では着かず、八戸での一泊を挟んで35時間かかるようです。